読書感想文

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vol.36 菊と刀

ルース・ベネディクト著 長谷川松治訳 

講談社学術文庫

第1章 研究課題

・戦争にあたり日本を研究することは苦心した。戦時中のため実地調査が行えない。また、日本を観察すれば観察するほど、矛盾した部分が見えてくる。

・この研究を行うことで、戦争における作戦、戦後の統治などに多いに役立つ。

・日本を研究する際は、文化の比較、在米日本人への聞き取りを中心にした。また、これまでの研究や日本での文化物も多いに参考になった。

・文化を研究する時は精神の強靱さと寛容さを共に兼ね備える必要がある。四海同胞主義といい、人間の心は同じであるという考えがあるが、それぞれの国ごとに文化的にある差別を認め、また、自身の国の常識を持ち込んではいけない。と同時に、自分には確固とした信念を抱えてないといけない。

・そもそもを重要にして、根底を探る事が大事だ。数量的調査は、質的研究を行なって初めて、効用がある。経済行動、宗教的儀式、家族構成、政治の意思決定、など一つ一つの行動は全て何かの根底によって噛み合っているものであり、それぞれに通用するものは何かを見定めなければならない。そのため、日常茶飯事に行われる、見落としがちな行動にこそ焦点を当てるべきである。

 

第2章 戦争中の日本

・日本の戦争原因は「階層社会の樹立」にある。日本はその階層において、それぞれが得るべき「所」を得る事が必要であるとした。

・また、国内ではアメリカの物質主義VS日本の精神主義の戦いであるとした。日本は物流ではアメリカに負けてしまっていることを重々承知しており、それを凌駕するための戦いとした。その精神は、自らが苦しめば苦しむ程磨かれるものであり「死」によって果たされるものとした。日本が無降伏主義をとり、特攻作戦をとったり、捕虜になることを避けたのはこのため。そのため、戦死者と降伏者の比率がエグい。また、捕虜になった時の教育を施されず、食料や医療というものが軽んじられた。連合国もこれを恐れた。

・またこういう見方があるため、日本人が捉えた捕虜の扱いが相当雑に。彼らは、死なずに生き長らえたことで名誉を失った者と見られた。

・日本人から見た天皇も様々な変遷を重ねている。封建社会においては、天皇はいないも同然であり、直属の上司や大名の方が崇拝されていた。それが、ここ数代の間では、かなり崇拝されるようになった。ここが不思議になった点である。軍部上層部や政府に対する批判は見られるが天皇に対する批判は見られない。(特に言論の自由を制限していることに対して批判するものが多かったのを見ると、決して批判をしない人とは考えれない。)ただ、その天皇も「平和を愛する人であった」「戦争を決断された」など、立場や人によって千差万別の見方をしている。

・日本人の行動特性としては、ある行動方針に失敗したら、別の行動方針を取るという事が見て取れる。というのも、西欧の兵士と異なり、俘虜になった日本人は何の抵抗もなく、我々(連合国)の慣習に従い、補給路や武器庫の場所を教えるなど模範的な俘虜になる事が多かった。

 

第3章 各々其ノ所ヲ得

・日本において理解しないといけないことは「各人が自分にふさわしい位置を占める」ということである。(今でいう身分相応)

封建制度においては「定められた地図に従えば、安定と保証が得られる社会」と考察できる。どこの階級においても、制限と保証を同時に認めており、封建社会を押し進める際に有効であった。人は自分が為すべき義務や持った権利を承知しており、これの侵害に対する抗議は受け入れられた。

・例えば、家族制度も例にあがるし、「敬語」の文化からも見える。

・ちなみにアメリカ人は商人が下位に属するのはびっくり。でも封建制度では、力を持たせすぎないという点で合点が行く。

・そのため、裁判も正式に行われたし、階層社会に挑戦した一揆の首謀者は極刑にされながらも、誰も抵抗しなかった。秩序に従順ということである。

・日本が階層社会の特徴は、上の人間が重大な責務を委託された人間として振る舞うということだ。全員に一族(仕組み)の維持・繁栄に腐心する。

・日本は中国の文化的輸入と国内の適応に成功した国であると思う。

性→中国では、地域ごとで制定されたが、日本では高位の人物のみが持つ

神社→中国では地域の先祖さんを祀る。日本では神様。

官僚→中国は国家試験。日本は高位に役職

天皇は神聖首長という点で見られた。要は統治はせず、政治は他人に委託し、自身は宗教的活動のみを行う存在。

・武士は俸禄頼みの生活から質素倹約を美徳とした生活をすることに。また、農民も高い年貢率や賦役から家族数が増えないように。江戸時代は人口が変わらない時代と考察する。

・結局、力を持った商人によって日本の封建制度は崩壊しておく。江戸時代終盤には、庶民から幕府に至るまで債務まみれの状況になる。また、商人は武士に養子を送ることで身分を買え、武士は商人に関係を持つことで経済的に利がある。これより、武士・商人・大名の結束が強まっていく。

 

第4章 明治維新

・日本人は階層社会において、「低い地位でもいいから何か特権を与えよう」という動きが見られる。この制度を他国に輸出しようとする上で天譴にあう。

・例えば、地方自治においても、部落や隣組などで単位を組み、それぞれに為すべきことをして、国からは干渉を受けない組織であった。また、地方自治に対しても行う領域を設定して、それぞれ侵攻しないとした。

・例外としては軍部であり、日本において唯一実力主義を採用し農民でも這い上がれる組織として魅力的だった。この軍部が独走し、また農民に味方をすることで肥大化。また、組織を跨いで意見するのは良くないという美徳から、誰も何も言えない状況に。

・ちなみに、憲法作成は宮内省が行なったが、これも「世間の批判や世論の侵攻を防ぐための措置」だとか。公選議員も意見・批判はできるけど予算の作成、法律の制定ができなかった。

・宗教も、国家としては個人に自由を認めるが、国家神道はしっかりと政府が持っているという状況に。

・成金が嫌われた理由もここにある。富裕層や貴族階級が富を持つのはいいけど、そこから漏れた人が富を持つのは許せないことから。

 

第5章 過去と世間に負い目を感じる者

・日本人は恩を債権・債務関係に感じると見る。この債務は一生を持っても返せないほど膨大なものである。

・特に、目上の知っている人からならまだしも、知らない人だとなおさら困惑する。

・恩を受けた=辱めを受けると解される。かたじけないという言葉にはこうした意味もある。

・また、恩を与えた側もそれを貫き通すための欲望との戦いがある。これを脱するには凡人になるか完全な人にならねばならない。

 

第6者 万分の一の恩も返せない

・日本人の思考の基礎を位置づけているのは「忠」である。天皇は日本国民の象徴と位置づけているが、天皇の発する言葉はある種絶対の意味を持つ。

天皇神聖にして侵すべからずというのはよく考えた仕組み。絶対不変の権力となりながら、政治は行わない。

・西欧では、国をひっくり返すには革命が必要だという考えがあるが、日本では通用しないことを覚えておくべきだ。

・一方、孝というものは日本が恩を感じた時の債権であるが、この孝は様々な意味を含んでおり、時として障害になる場合がある。

 

第7章 「義理ほどつらいものはない」

・日本では義務と並んで義理も重要視される。これは、恩や忠、孝にくらべてもっと嫌がられるもので、世間に対して申し開きならないとされて勤められる。

・ただし、義理を知らない人間という烙印は避けたいとしている。

 

第8章 汚名をすすぐ

・日本人は汚名を着るということを避けたがるため、社会の仕組み的に避けさせるようになっている。結婚の場合は仲介人というものを立てるし、教育現場では絶対評価を軸として相対評価しない。実際、競争という場所に身を置くとパフォーマンスが下がるという実験結果がある。

・万が一、汚名を来た場合、まずは復讐という行為を行うが、現在はなかなかこれを行わない。自己の倦怠感を感じて、自殺をしてしまうということが多い。この死をもって訴えるというのは様々な場において見られる。

・このように義理を汚されたがために自尊心の喪失や自殺と自分に向けることは義理による暗い面だろう。一方、英国の艦隊を見た薩摩・長州が敵対しながらも友好を求めたところを見るに、臨機応変な態度をとることができるのを見るに「義理」にも明るい面がある。 

 

第9章 人情の世界

・「孝」の世界で疲れた日本人は、その疲れを癒すために不倫をすることもある。また、それを世の中が承認する向きがある。

・ただ、不倫をした人間を妻として迎れることはしない。その区別はしっかりしている。それは孝に背くからである。日本では結婚を「子孫を生んで家を存続させるためにすること」であり、純粋に恋愛によって結婚されることはない。むしろ、不倫を真の愛としている。

・また、日常の世界では、温泉や睡眠、食事などが肉体的な享楽として受け入られている。これを抜くこと、反対の行為は「鍛錬」であり、訓練で重要される。

・この情景の世界を自身の中で自身の下位に割り当てることで統制できていると思っている。

 

第10章 徳のジレンマ

・忠・義理・孝の関係性において「忠」は絶対のものであり義理や孝に優先される。

赤穂浪士の例を見るに「義理を知らない人間」というのは日本では汚れたものとして嫌悪される。また、「義理」や「孝」を守るためにそのほかのものに背いた場合は、義理を果たした後で自決(死)を持ってもう一方を果たす。

・人類比較においては「恥の文化」と「罪の文化」の二つに分けられる。恥の文化は外面的な強制力が個人の行動を規制し、恥辱を感じることが悪としている。また死によってそれらは解決される。日本はこっち。罪の文化は宗教など絶対的な判断基準があり、それが個人を規制する。また、罪の告白で軽減され、死んだ後に裁定が成される。

 

第11章 修養

・日本人は「何か特別な訓練することで一人前という風習がある。アスリートや研究者など職種を問わず修練することが強要される。

・ちなみに修養とは自己犠牲や自己抑制をそのようなものとして認識しない努力である。

・特に目指すべき姿は「無我」のように思える。これはヨーガ教や仏教などで上げられる一つの姿である。ただ、日本人が仏教徒やヨーガ教徒とかと問われればそうではなく、あくまで影響を受けているという程度だろう。

・これは「死んだつもりでやってごらん」という言葉に代表される。これにより高いパフォーマンスが発揮されることを考えると普段、いかに自己監督や自己監視を重圧としているか伺える。

 

第12章 子供は学ぶ

・日本人の人生曲線はアメリカのそれとは逆である。子供やお年寄りは自由を許させるが、大人は束縛が多い。

・また、男子と女子では教育から生涯を通じて大きな違いがある。男は家父長制の次にあたり家庭内で大きく権力を持つ。そのため、かなり丁重に扱われ、多少の逸脱は許される。女子はこうした逸脱は長く許されず抑圧され、60を超えてからようやく権力が持てる。

・思うに冒頭ででた二面性は教育の不連続性にある。自由を許された年少期と束縛や要求されることが多い青年期とが相まった結果が複雑な二面性にでる。日本人の評価基準は「期待されてた通りかどうか」でそれぞれの人間の善悪は関係なく、恥をかかないことが第一とされる。

・日本には刀の文化があるが、これは日本人の精神を表しており、身から出た錆を拭うのはもちろん、つねに修養や練達により綺麗に保たなければならならない。ただ、一方で和歌や歌などの遊びに興じる様は菊の優美さのようである。ただ、その優美さを保つための芯(針金)を持たなくてはならない。

・ただ、いろんなしがらみによって苦しんでいる日本人はちょっと可愛そう。

・あと、日本人の文化を変えられないとは思えない。

 

第13章 降伏後の日本

・日本占領のポイントとして

1 日本人は自分の失敗によって得た結果を当然の報いとして受け止め、自分で改革していく。

2 そのため、いかに適切かつ厳格に日本を管理するかが重要となる。もし、過度な管理をしたら辱めを受けたとして反撃される。

3 なにか変えるにしても、過去との連続性を持たせることですっと入れる。逆に全く新しいものには抵抗があるもの。

4 〇〇抜きで圧倒的な成果を挙げるというのが日本人が好む排除の体系。